Beyond your wall with Drogger

ドロガーで壁を越えよう

VRSC テクニカルガイド

CLASを利用したVRSC (仮想基準局(VRS) by CLAS)が発表になりました。

このガイドは、VRSCの購入や利用に際し、用途の適合性や対応方法などを示すものです。

私どもが実験などで得た知見などを公開することで特性などを理解いただき、良い点を引き出してご利用いただければと思います。

はじめに

VRSCは、DG-PRO1RWSなどとともにRTKを実現するみちびきの CLASを用いた仮想基準局です。この測位方式のことをPPP-RTK*1と呼びます。

この方式による測位はほとんどの方が未経験です。しくみなどからくる特徴や注意点などをご説明します。

CLASについて

精度

精度は定点 水平̟̟±6cm 垂直 ±12cmです。通常のRTK*2に比べると精度に劣ります。 また、ミスFixする確率も高くなりますので合わせてミスFixの項もご覧ください。

CLASから生成する観測データは完全ではありません。多くのタイミングで概ね問題ありませんが、衛星配置、電離層や大気圏の活動状態などにより特定の地域・時間帯などでFixが得られない場合もあります。

完全性を求めるの場合は、DG-PRO1RWSによる実基準局を優先的にご検討ください。

サービス範囲

配信されるデータの範囲は、日本国内のみです。運用局よりサービス範囲が明示されています。海上は近海に限りますのでご注意ください。

配信停止などの情報

CLASデータは運用局のメンテナンスなどで停止や精度劣化などが予定されることがあります。これはNAQUと呼ばれる情報で、内閣府のホームページで公開されています。重要なご利用などの場合は事前にご確認いただく必要があります

ネットワークIDとグリッド

NAQUでは個別のネットワークIDといった表現がされることがあります。以下にネットワークIDとグリッドを示します。誤差情報は、このグリッド・衛星・シグナルといったマトリックスで配信されます。

ネットワークIDは地図上のマーカー の先頭の数字です。例 3-4 3がネットワークIDで4がグリッド番号です。

www.google.com

データセットと初期化時間

CLASデータは毎秒 250byteで30秒で1セットのデータです。最初の250byteには以降(29秒分)のデータの並びなどを示す内容が含まれます。このため、1秒目のデータを受信できないと後に続くデータを処理できません。この仕様から、初期化(RTCMの生成)には受信開始タイミングにより30秒~最大1分かかります。

車などでの移動

自動車などで広範囲に移動する場合は注意が必要です。道路には頭上の構造物(大型看板、歩道橋、高架橋、トンネル、アンダーパスなど)がたくさんあり、それらが1秒目のデータ受信を遮った場合は、そのデータセットは処理できません。また、2~30秒目までのデータの一部でもそのデータセットが無効なこともあります。

高速道路で高架橋が連続する場合などでは、長い距離でRTCMが出力できなくなります。また、長いトンネルなど受信ができない状態の後は、再出力までに時間がかかります

ただし、多少データが古くなってしまいますが、DG-PRO1RWS側では、RTCMの有効時間をデフォルトで1分に設定しています。1分間は新しいデータがなくともRTKを持続します。

VRSCについて

主な機能

VRSCでは主に以下の2つのことが行えます。

  • 仮想基準局サーバー
  • QZSS L6D/E 受信機 (RAWデータの出力)(一般的には使用されません。実験・研究といった用途専用です)

RAWデータの出力はBluetoothまたはTCPClientのいずれかを選択できます。尚、仮想基準局サーバー(RTCM生成)とRAWデータ出力の同時実行はサポートされません。いずれか一方のみの実行になります。

座標

VRSCを用いて得られる座標は、今期座標(現在の座標)です。測量成果や地図などで使用される元期座標にするにはセミ・ダイナミック補正が必要です。

対応する移動局用のレシーバ

VRSCは弊社のRWPまたはDG-PRO1RW(S)でご利用可能です。

他社製のレシーバにて、VRSCで観測データを出力するようにするには、以下の条件を満たす必要があります。尚、弊社ではサポートできませんのでご了承ください。

  • VRSCへのアクセスはNtrip Clientにて192.168.4.1:2101へアクセスする(ユーザー名、パスワードは空)
  • u-blox RXM-SFRBX メッセージをVRSCに送信する(GPS, QZSS Galileoのもののみで、それ以外の衛星のものは送信不可)
  • 5秒おきにu-blox NAV-PVTメッセージをVRSCに送信する。(5秒間隔以外はサポート外)

尚、旧モデルのDG-PRO1RWやMB(ムービングベース)などで使用される場合は、レシーバのWiFiが使用できません。そのため、AndroidのWiFiを使用してVRSCに接続します。AndroidのWiFIでVRSC以外への通信は出来なくなりますのでご注意ください。通常WiFIでの通信の主な目的はRTCMの受信ですので、ほとんどの場合は問題ないかと思います。

WiFIアクセスポイントとBluetooth

VRSCはWiFIアクセスポイントとして動作します。仮想基準局として使用する場合はこのアクセスポイントを通じて通信します。

Bluetoothも装備されていますが、こちらは設定とRAWデータの出力に使用されます。通常の用途でこれを使用する必要はありません。

データの流れ

VRSCとDG-PRO1RWSは下図のように構成されます。

VRSCDG-PRO1RWSWiFiで通信します。2台の本体をすぐ近くに置くようにしてください。野外で障害物がなければ10m程度は離れていても通信可能です。(周囲の電波環境によって変化します)

f:id:bizstation:20210221105054p:plain

  • 前モデルのDG-PRO1RWの場合は、WiFiを持たないため図中の[WiFi ST] と[Ntrip Client]はAndroidのDrogger-GPSで実行されます。
  • DG-PRO1RWSをMoving Baseで使用する場合はWiFiをNtripClientとして使用できないため、[WiFi ST] と[Ntrip Client]はAndroidのDrogger-GPSで実行するようにします。
  • レシーバ内蔵WiFiでVRSCに接続するか、Drogger-GPSでVRSCに接続するかは、[レシーバのNtripを使う]で切り替えることができます。
    f:id:bizstation:20210221105418p:plain:w300

[レシーバのNtripを使う]がOFFの場合の構成は下図のようになります。
f:id:bizstation:20210221110439p:plain

RTKに使われる衛星と信号

CLASで配信される衛星と信号に対し、DG-PRO1RW(S)で受信できる信号は完全に一致しているわけではありません。図にすると以下のようになります。

f:id:bizstation:20210212124124p:plain

  • オレンジの円: CLASで配信される信号
  • グリーンの円: DG-PRO1RW(S)のRTKで処理できる信号
  • 両方の円の重なったところがVRSC+DG-PRO1RW(S)で利用可能な信号

VRSCではこの円の重なった、GPS L1/L2 Galileo E1 と今後対応予定のQZSS L1/L2 のRTCMが生成されます。

Galileo E5bはDG-PRO1RW(S)で処理できるものの、CLAS側での配信がありません*3

ミスFix

RTKにおいて、間違った測位解になることをミスFixと言います。ミスFixは多くの場合、マルチパスなど観測環境によるものがほとんどです。しかし、CLASの場合は実測値ではなく計算値のため、前述の精度と同じ追加の誤差を含んでいます。そのため、通常のRTKに比べミスFixする可能性が高くなります

加えて、VRSC + DG-PRO1RW(S)の場合、GPS L1/L2での2周波RTKが可能ではありますが、GPSにはL1しか配信しない衛星が多数あり、衛星配置によっては十分な数のL2信号が得られず1周波でのRTKになるざる得ないことがあります。

GPS L1のみの衛星
2 13 14 16 19 20 21 22 28号機

弊社ではu-blox社と協力して2021年内を目途にDG-PRO1RW(S)でのQZSS RTK対応を進めて参ります。QZSSが加わることによりミスFix削減*4による精度向上を目指します。

ミスFixの検知

CLASデータの誤差により偶然にミスFixが発生する場合は、Fix後にレシーバの測位状態をリセットし繰り返し数回Fixさせることで比較的短い時間で異常値かどうかを判断することができます。 Drogger-GPSではWaypointログ機能でこの処理を自動化する予定です。

手動でも、以下の方法でレシーバの測位状態をリセットができます。

  • メイン画面の [... メニュー] - [レシーバ]-[GNSSホットリスタート]をタップします。 f:id:bizstation:20210213202420p:plain:w300

農業トラクターのナビなどの場合は、農地内のどこかに検証ポイントなどがを設けると判定が容易にできます。搬送波測位の場合、オープンスカイで搬送波をロックできていればFixが持続します。この特性を利用してFixした時点でミスでないことを判断できれば、その後の測位はミスFixでないと判断できます。

仮想基準点と移動体

VRSCはDG-PRO1RW(S)から送信された位置情報の位置を仮想基準点として、その点での観測データ(RTCM)を生成します。移動体の場合、新しい位置が前の点から1kmを超えた場合に仮想点を更新します。
すなわち、1km進むごとに新しい点での観測データが出力されます。

DG-PRO1RW(S)からみると、時々基準局のアンテナ位置が変わることになります。この切替をハンドオーバーと言います。DG-PRO1RW(S)はRTKが切れることもなく、何事も無かったかのようにハンドオーバーします。

実測データ

以下に具体的な観測データを示します。これらのデータは、特に選ばれたものでなくごく普通に取られたデータです。

水平精度

ここでは2つのデータを紹介します。2つとも車に取り付けたアンテナで測位したデータです。

最初の図は、富士スピードウェイでの完全なオープンスカイでのデータです。 f:id:bizstation:20210212171905p:plain

下のデータは埼玉でのデータです。非常に強風で車が揺れていたことと、周囲に建物がある場所のため上図よりは悪い結果となってります。西北西側にあった建物等の影響で若干ミスFixが見られます。 f:id:bizstation:20210212172838p:plain

FIX率

下図は24時間の観測データで、FIX率は99%以上となっています。 f:id:bizstation:20210212174412p:plain

フィールドテスト

f:id:bizstation:20210218145922j:plain

車輌(ハイエース)のルーフにVRSCとDG-PRO1RWSの標準アンテナを貼り付けていくつかのポイントを実測した結果です。(その際のWaypointログ

  • レシーバ設定は、Drogger-GPSのデフォルトで、Ntrip Clientのみ基準局に合わせて変更しています。
  • 水平誤差は、VRSCでの計測と弊社の実基準局を使用したRTKでの計測の差としています。
  • Fixまでの時間はDrogger-GPSの「GNSSホットスタート」を実行してからFixedになるまでの時間です。
  • リファレンス基線長は実基準局と計測ポイントまでの距離です。
場所 水平誤差
(cm)
Fixまでの
時間(sec)
リファレンス
基線長
(km)
備考 画像
市街地1 1.491 37 0.30   f:id:bizstation:20210218125137j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218125131j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218130312p:plain:w80
市街地2 2.753 121 0.03   f:id:bizstation:20210218125145j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218125141j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218130317p:plain:w80
農地 1.955 31 1.50   f:id:bizstation:20210218130251j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218130247j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218130323p:plain:w80
山林 5.801 170 8.70 ミスFix
1回あり
f:id:bizstation:20210218130300j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218130255j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218130328p:plain:w80
山間部道路 3.163 90 9.00   f:id:bizstation:20210218130304j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218130308j:plain:w80 f:id:bizstation:20210218130333p:plain:w80

水平誤差、6cm以内にすべて収まっています。山林での計測において一度ミスフィックスがありました。

まとめ

  • VRSCは、通信インフラなしに衛星の電波だけでRTKを可能にする基準局です。
  • 仮想点における観測データを生成するため、アンテナ位置を事前に測量する必要はありません。どこでもすぐに基準局になります。
  • 重要な業務のときは、事前にCLASの運用状況をNAQUで確認しましょう。
  • 仕組み上、通常のRTKに比べてミスFixがおきる可能性が高いことを知っておきましょう。GNSSリセットをうまく使って検出しましょう。

いろいろ難しいことを書いてしまいましたが、オープンスカイなら電源を入れれば普通にすぐにFIXします。是非VRSCを!

Enjoy with Drogger

Droggerの詳細・ご購入は https://www.bizstation.jp/ja/drogger/

*1:VRSCとDG-PRO1RWSによるRTKはPPP-RTKと呼ばれる測位方法です。PPPは高精度単独測位で、各種精密誤差情報を外部から得ることでセンチメートル級の測位を実現する測位方法です。 VRSCによるPPP-RTKは、各種精密誤差情報をみちびきCLASより受信し仮想点における疑似観測データを生成しRTKを行う測位方式です。

*2:実際に衛星信号を観測し、基線長10km以内の基準局を用いたRTK

*3:弊社では内閣府にE5bの配信追加を要望しております。ただ、現状では小さな声に過ぎないと思われます。ご利用者皆様からも内閣府に対し要望していただき実現できれば精度等の向上になります

*4:衛星数の増とL2対応衛星の増加により