高精度 GNSSを学ぼうの2回目は測位「誤差」のお話です。
その1 での測位方法で見ると誤差は無いように感じられるかも知れませんが実際はそうではありません。
誤差は大きく分けて、衛星誤差 、伝搬遅延 、受信機誤差 の3つあります。
この誤差の問題をどう解決して精度を上げるかが測位方式ということになります。
それでは一つづつ順に説明していきます。
衛星誤差
まず、衛星に関連する誤差です。前回の計算方法では、衛星の時計にズレがなくかつ衛星位置にズレがなければ正確です。しかし実際にはそれぞれズレがあります。
衛星時計
受信機の時計は4つ以上の衛星を使って合わせます。これらの衛星には原子時計が積まれています。しかし、原子時計といえどもすべて同時刻とはいきません。わずかながら違いがあります。
僅かな誤差であっても光の速度で距離を測るため、たった1マイクロ秒でも300mも違ってきます。しかしながら、衛星から放送される航法データの中には衛星の時計誤差情報も含まれています。それを加味すると距離に換算して概ね 2m以下とされています。
軌道誤差
衛星は地上からの制御によって軌道修正を繰り返しながら周回しています。計画した位置からずれたり戻ったりしているわけです。そのため、計算された位置と実際の位置にはズレ があります。
このズレは直線距離に換算して概ね4m以下とされています。
伝搬遅延
電波が衛星を出て地上に到達するまで2万km以上あります。その途中で目には見えませんが、太陽光によって発生する電離層 という電子密度の高い層や、地表付近では大気の中を通過します。
この電離層や、大気層を通る際に密度の違いから電波は屈折したり反射したりします。このうち屈折によって 、衛星からまっすぐではなくやや長い距離を旅して地上に届きます 。これが伝搬遅延 です。現象は遅延ですが、電波の速度が遅くなるわけではありません。常に光速です。
まっすぐ届かない簡単な例ですが、よく夏場地面付近でかげろうが出ます。これは、大気密度の変化により光がまっすぐ届かずゆらゆら揺れて届く現象です。このように光や電波は密度の違うところを通る際に屈折し、まっすぐ届かなくなります。
電離層遅延
電離層 は主に太陽光によって発生します。ですので日中が多く夜間は減少 します。電離層による遅延は2から20mほどになります。この層は均一の安定した層ではなく現れたり消えたりといった変化のある層です。
また、電離層での遅延は電波の周波数の2乗に反比例する 特性があります。周波数が高いほど少なくなり光になるとほとんど影響しなくなります。衛星からは実は複数の周波数の電波が発射されています。1つの衛星から同時に2つ以上の周波数を受信 できると、測った距離の差から電離層での遅延量を推定 できます。
ここで、測位コード信号や補正信号の周波数について書いておきたいと思います。1つの衛星から放送される電波は1種類ではなく複数の電波が放送されています。下表は周波数の高い順に並んでいます。
衛星
種類
周波数(Mhz)
備考
GLONASS
L1
1602.00
GPS・QZSS
L1
1575.42
Galileo
E1
Beidou
B1
1561.098
Galileo・QZSS
E6/L6
1278.75
Beidou
B3
1268.52
GLONASS
L2
1246.00
GPS・QZSS
L2
1227.60
Galileo
E5b
1207.14
Beidou
B2
GPS・QZSS
L5
1176.45
古いGPSは非サポート
Galileo
E5a
周波数のイメージのために、東京FMは 80.0Mhz 、WiFi・Bluetoothは2400Mhzです。FMラジオよりは随分高く、WiFiの半分くらいの周波数帯になっています。
当社のRWSシリーズの受信できるシグナルは、GPS・QZSS:・GLONASS:L1/L2、Galieo: E1/E5b、Beidou:B1/B2 となっています。 RWS.DC(M)はこれらに加えてQZSS:L6が受信できます。
大気圏遅延
地表から成層圏までの間には大気の層があります。大気層の上部と地表付近では大きな密度差がありますが、雨など水蒸気を含むと温度差が少なくなり密度変化が小さくなります。このため、大気層での遅延(屈折)は水蒸気の量によって変わってきます 。また、荒れた天候などにみられる温度や湿度の激しい変化なども影響します。
この遅延量のみ分離しての推定が難しいですが、衛星の仰角(水平線をセロ度、真上を90°とした角度)により大気の層を通る長さが変化するため、ある程度のモデル化がされています。受信機はこのモデルを使って遅延量の推定を行っています。
この遅延量は概ね数メートルとされています。
マルチパス
上記2つの伝搬遅延と少し異なる遅延です。山やビル、建物などに反射して届く電波を反射波 と呼びます。対して、アンテナにダイレクトに届く電波を直接波 と言います。
この、直接波と反射波の両方が届くことをマルチパス (複数経路)と言います。反射波は衛星までの直線距離よりも長くなってしまいますので、これを使うと誤差になります。また、混信状態ですので測位信号のタイミングミスにもつながります。
また、反射波しか届かない場合があり、それを使うと完全に間違った位置と推定してしまいます。
受信機誤差
受信機の時計は、原子時計と違い精度の安定性に劣ります。時刻を合わせても直後にはマイクロ秒オーダーではどんどんずれていきます。これをクロックドリフト と言います。安定したドリフトであれば補正が可能ですがドリフトが不安定だと大きな誤差 になります。
時計の時を刻む水晶振動子は温度で振動数が変化 します。そのため急激に温度が変化しないように空気の対流をなくすなどの工夫が必要です。
ビズステーションの受信機では、特殊な樹脂で封止することで外気温の変化に対して、内部は穏やかに変化するようにして精度を向上させています。
精度の向上
このように誤差にはさまざまなものがあります。また、その大きさはかなり大きくこのままでは、測量に使用できるレベルではありません。しかし、先人の知恵によってこの誤差を取り除き誤差 1cmといった精度が実現できます。精度を向上させるいくつかの技術を説明します。
アンテナケーブルの長さは誤差にならない?
アンテナが別体の受信機では、アンテナケーブルが10mといった長い場合もあります。衛星までの距離を測る場合、受信機からみるとこのケーブルも長さも含まれるはずです。しかし測位される位置はアンテナ位置です。なぜでしょうか?
まず、これまで説明した誤差を含めた距離を計算式にしてみます。
衛星Aまでの距離 = 衛星位置誤差A + 衛星時計誤差A + 伝搬遅延A + 受信機誤差 + 真の距離A
となります。これを違う衛星Bでみると
衛星Bまでの距離 = 衛星位置誤差B + 衛星時計誤差B + 伝搬遅延B + 受信機誤差 + 真の距離B
ここで、衛星AもBも受信機誤差だけは同じ であることがわかります。この2つの式の右辺と左辺両方をA-Bの引き算をすると
衛星Aまでの距離 - 衛星Bまでの距離 = 衛星位置誤差A + 衛星時計誤差A + 伝搬遅延A + 真の距離A - (衛星位置誤差B + 衛星時計誤差B + 伝搬遅延B + 真の距離B)
となり。受信機誤差が相殺され消えます。アンテナケーブルの長さは受信機の誤差 と考えると、これは消えてしまい無関係にできる ことがわかります。
このように、受信機の位置推定では同じ誤差をは引き算することによって消す処理が行われます。
測位方式
上の引き算は最も一般的な単独測位でも行われます。誤差を推定したり消去したりすることで精度を向上させますが、その方法にはいくつかあり、それが測位方式になります。
単独測位
単独測位は、一つの受信機で位置を求める方法です。
単独測位では、いくつかの誤差を推定したり、外部から得たりしながら位置を求めます。このとき、まず仮の受信機位置を決めます。その位置からの衛星までの距離と実際に計った距離を引き算した値(残差)を複数の衛星で求めます。残差から位置と未知の誤差を推定します。さらに推定された位置を仮の位置にし、残差が基準値より小さくなるまで繰り返えして位置を決定します。
ここで得られる位置は、絶対的は緯度・経度・高度が得られます。
相対測位
相対測位は位置の判っている受信機(基準局)のデータを使って、位置の不明な受信機位置を求める測位方法です。RTKやstaticと呼ばれる方法はこの方法です。
相対測位では、多くの誤差を引き算によって消去できるため、通常単独測位に比べて高精度な測位が可能です。計算方法は、RTKの説明の際にしたいと思います。
相対測位で得られるのは、基準局からの相対的な位置 です。
ここでは簡単に測位方法の特徴を表にまとめます。
多くの場合、受信機以外から誤差の情報を受け取って測定値を補正し、より正しい位置を求めます。
式
概要
距離の測り方
位置決め
精度(一般論)
単独測位
測位衛星からの情報のみで測位します。特別な誤差情報などは他から得ず、受信機自身で誤差の推定などを行います
コード
単独
1~ 10m
SBAS (DGPS)
SBASは各衛星の誤差などを放送する、GPS L1と同じ周波数の静止衛星です。ここから得られる誤差情報を使って精度を向上させます。誤差情報は、GPS 、GLONASS が対象で、時計補正 ・軌道補正 ・電離層遅延補正 が含まれています。
コード
単独
0.7~2m
SLAS (DGPS)
SLASは日本のみちびきL1S信号 で放送される誤差情報です。SBAS同様にこの情報を使って精度を向上させます 。誤差情報は、GPS 、QZSS 、Galileo が対象で、時計補正 ・軌道補正 ・電離層遅延補正 が含まれています。遅延情報は日本を14の地域に区分して地域ごとの情報 が配信されます。地域情報は日本国内のみ サポートされています。
コード
単独
0.7~2m
RTK
RTKはSBAS,SLASのような誤差情報ではなく、別の位置の判っている受信機(基準局 )で観測した距離を使い誤差を消去して測位する方式 です。リアルタイムで位置を計算するため、基準局の観測データを転送する通信システムが必要 です。 RTKの位置推定結果にはFIX とFLOAT の2種類あります。FIXは正確に波数が確定できた状態、FLOATは波数の確定に至っていない状態です。FLOATになるのはマルチパスやその他の誤差により基準局の観測結果との矛盾が多い状態です。
搬送波
相対
水平 1cm+1ppm 垂直 1.5cm + 1ppm
Static (後処理)
Staticは位置を計算する方法はRTKと同じですが、リアルタイムではなくログを取ってあとで解析する方法です。非常に高精度な測位が可能です。 同時に複数箇所でログを取ると1つのデータで複数の基準局とで解析を行うことができます。無料で配布される電子基準点のログを使った解析なども簡単に行えます。
搬送波
相対
水平 0.5cm+1ppm 垂直 1cm + 1ppm
CLAS (PPP-RTK)
CLASは、日本のみちびきL6D信号 で放送される誤差情報です。GPS 、QZSS 、Galileo が対象で、SBASやSLASと違い、より詳細な地域情報と大気圏遅延 も含めたすべての誤差を扱うのが特徴です。地域情報は日本国内のみサポートされています。 CLASはPPP-RTKと言う方法で、適当に決めた仮想点と理論上の衛星距離に誤差をプラスして疑似的な観測データを生成しRTKを行います。
搬送波
単独(内部は相対)
水平 6cmRMS 垂直 12cmRMS (規格値)
MADOCA (PPP)
MADOCAは、日本のみちびきL6E信号 で放送される誤差情報です。GPS 、GLONASS , QZSS 、Galileo が対象で、SBASやSLASより精密で頻度の高い時計補正 ・軌道補正 が行われます。そのほかの誤差は受信機で推定するため高精度になるまでに30分から2時間程度の時間を要します 。地域情報はありませんので、みちびきが受信できる地域(アジア・オセアニア)ならMADOCAを利用できます。
搬送波
単独
水平 10cm程度
距離の測り方に、その1で説明したコード測位に加えて搬送波 が出てきました。
搬送波測位
搬送波とは単に電波の波のことです。電波の利用では通常、音声や映像・データなどを波に乗せて使用します。電波に含まれるデータと区別するため、電波そのもののことを搬送波 と呼びます。
コード測位は電波に乗せた信号を使います。コードは約1Mhzでビット間で約300mでした。搬送波は電波の波そのものですので、1つの波の距離は、L1だと 光速/1.5Ghzで約19cmです。
波の数を間違えずに数えられれば19cm単位の目盛になります。300mに比べると圧倒的に細かな目盛 になります。
搬送波測位はこの波の数を数えることで、高精度に測位します。RTK、Static、PPP-RTK。PPPなどは搬送波を使った測位方式 です。
コード測位は、カーナビやスマホなど一般的な受信機で使われますが、搬送波測位はより高精度な受信機でのみ可能です。尚、搬送波測位の場合も同時にコード測位も行っています。
みちびき
SLAS、CLAS、MADOCAはみちびきからのみ放送される補強信号です。みちびき自体が比較的新しいためこれらの技術も近年になって使用できようになってきています。世界標準ではないためサポート状況は受信機やメーカーごと異なります。カタログなどを見る際の参考になるかと思います。
ビズステーションの受信機では、RWS はSLAS対応、RWS.DC(M) はSLAS、CLAS、MADOCA対応となっています。また、CLAS、MADOCAを受信できないRWS/RZS.D でもL6受信機VRSC を使うと可能になります。
受信機
周波数
搬送波
SBAS
SLAS
CLAS
MADOCA
RTK
static
DG-PRO1S
1
-
○
-
-
-
-
-
RWS
2
○
○
○
VSRC必要
VSRC必要
○
○
RWS.DC(M)
2
○
○
○
○
○
○
○
RZS.D
3
○
○
-
VSRC必要
VSRC必要
○
○
RZS.DC
2
○
○
-
○
○
○
○
今回はすこし込み入った内容になりましたが、上手な利用には避けて通れませんので是非ゆっくりご覧いただければと思います。ここまでの内容でスペック表の主な部分が理解できるようになるかと思います。精度表示とか通信方式とかはまだですが。
次回その3は、高精度なリアルタイム測位を行うRTKについて書きたいと思います。
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