このガイドでは、Drogger RZSシリーズのGNSSモジュールの仕様の違いから来る、RWSシリーズのメリットや僅かな動作の違いなどに焦点を当て詳しく解説します。 記載のない事項については、RWSシリーズと同様です。
Droggerエコシステムが利用可能
RZSシリーズはRWSシリーズで培ったDroggerのシステムがそのまま利用できます。
- Drogger-GPSアプリ
- Drogger Ntip Caster**
- Drogger Processor
- VRSC
- MADOCA
などがそのままRWSシリーズと全く同様に使用できます。
また、受信機内部の
- DMP
- シリアル拡張モジュール
- WiFi
- Bluetooh
- SDカード
- 電源
などといったインタフェースも同様です。接続可能なアンテナも同様です。
- Droggerエコシステムが利用可能
- マニュアル記述
- パッケージ
- 起動
- 受信機コントロール
- コールドスタート、ウォームスタート
- 衛星とシグナル選択
- 3周波 staticが可能 (RZS.Dのみ)
- RTK移動局
- 単独測位(SBAS利用含む)
- RTK基準局
- NMEA出力
- Galileo信号認証に対応
- VRSC
- GNSS F/Wの更方法
- 外形寸法とXパッケージ
マニュアル記述
RZSは、前記のとおりDroggerエコシステムを利用できます。従来からあるそれらのマニュアルにつきまして一部にRZSを考慮していない場合があります。 このガイドの内容はそれらの内容に替えて優先します
パッケージ
RZSのパッケージは以下の3種類です。(予定含む)
- 受信機単体 (アンテナ単体)
- Xパッケージ (RZX.D RWXシリーズ同様のパッケージで RZS.D + HX-CSX601A + 大容量バッテリーホルダー)
- 基準局パッケージ(予定)
基準局パッケージは、My基準局に必要なアンテナ、ケーブル、WiFi、(アンテナマウント)など基準局の構築に必要なもののセットです。
起動
GNSSモジュールは高機能で大容量のF/Wを備えるため、電源を入れてからコマンドを受け付けるまでに概ね20秒ほどかかります。受信機全体では25秒ほどかかります。
GNSSモジュールの起動待ちの間は、4つのLEDすべてが点灯します。この動作はRWSシリーズと同じですが4つのLEDすべてが点灯した状態が20秒ほど続きます。この間は電源を切らないようにしてください。
受信機コントロール
Drogger-GPSにて通常の制御が可能です。Drogger-GPSでの制御はシグナル選択も含め細かな点まで最適化されています。複雑なインタフェース操作の必要はありません。 (MosaicにはSeptentrio社独自のWebインタフェースがありますがRZSシリーズでは使用できません。)
Drogger-GPSにおけるRWSシリーズとの相互運用
Drogger-GPSの設定において、RWSシリーズとは細かな点が異なるため相互運用はできません。RWSシリーズを使う際には一度デフォルトから設定していただき保存してください。Drogger-GPSの設定管理にて切替えてご利用いただけます。
コールドスタート、ウォームスタート
アシストGNSS(A-GNSS)がサポートされないためしばらく使用していなかった場合はコールドスタートになります。位置を出力できるまでに30秒ほどかかります。測位後に電源を切った場合は、OFF時間が2時間未満であればホットスタートします。
尚、衛星の電波が弱い室内でコールドスタートした場合、数分待っても測位できませんので野外でご使用ください。
衛星とシグナル選択
RZS.D (3周波モデル)
RZS.Dは1つの衛星で最大4チャンネルの受信ができます。GPSではL1 L2 L5の3周波ですが、L2にはL2CとL2Pの2つのシグナルがあり、同時に合計4つのシグナルを受信できます。 GPS L2ではL2Cは放送していない衛星があります。L2Pをサポートすることで使用できるGPSが増えています。L2PとL2Cの両方使える場合は、L2Cを使って測位されます。
その他の衛星は最大3シグナルです。デフォルトで3周波受信になっています。
RZS.DC (CLAS対応モデル)
RZS.DCはみちびきL6を受信するためGNSSモジュールの制限から3周波の受信はできません*1。GPSはL2PのみでL2Cは受信できません。
CLAS測位時は、設定に関わらずGPS、QZS、Galileoの3衛星のみ使用されます。
CLAS測位と通常のRTKの切替は設定を変更する必要があります。RTK移動局をONにしている場合はCLASは無効になります。CLASを有効にするにはRTKの設定をOFFにします。これは将来装備予定衛星信号認証(QZSS L6Eが必要)に備えた措置です。QZSS L6のチャンネルは1つで、L6D(CLAS)とL6E(MADOCA)を両方受信できないため、RTK時はL6Eを受信するようにします。
また、Drogger-PPMアプリとの組み合わせでMADOCAの測位も可能です。
RTKで使用されるシグナル(RZS.D(C))
RTKのPVTに使用されるシグナルは各衛星で2つです。一部の記事などでMosaic-X5が、1つの衛星の3つの周波数を使ってRTKの演算をするかのような記述が見受けられますがこれは誤りです。Mosaic-X5がRTK演算で1つの衛星で使う周波数は2つです。
GPS,QZSS,GLONASの場合はL1とL2、GalileoはE1とE5bまたはE5a、BeidouはB1とB2またはB3です。 この衛星選択は将来GNSSのF/Wで変る可能性があります。
QZSSはRTKの処理においてGPSと統合処理*2されます。基準局側で統合処理に対応*3していない場合F、FIXしないことがあります。(データサービス会社4社は動作OK確認済)その場合はQZSSをOFFにしてご使用ください。
RZS.DではBeidouB3IもRTKに使用できます。このため、(一部を除き)ほとんどすべてのBeidou衛星を使うことが可能になります。Beidouだけで15機もの数になる場合があります。
衛星数の表示
Drogger-GPSのメイン画面で表示される衛星数ですが、RZSの場合、RTKの際は補強データを受け取りRTKに使用されている衛星数の合計を示します。
RWSシリーズはRTKであっても単独測位に使用される衛星も含まれたものが表示されます。
尚、RTKの観測記簿でカウントされる衛星数は、どちらの機種もRTKで使用されている衛星のみです。
マルチパス推定と除去
RZSはマルチパス推定とその衛星の除外機能があります。コード測位、搬送波測位いずれも有効です。
3周波 staticが可能 (RZS.Dのみ)
RTKでは1つの衛星で2つの周波数と記しましたが、Drogger Processorを使ったstaticでは3周波で測位が可能です。一部を除き電子基準点は3周波のデータがダウンロードできます。
また、RZS.Dの観測データどうしでも3周波での測位が可能です。
特に2周波ではFIXが得られにくい長基線においてFIX解が得られやすくなります。
国土地理院1級GNSS測量機
国土地理院1級GNSS測量機として登録されております。詳しくは以下の記事をご覧ください。 https://drogger.hatenadiary.jp/entry/2023/12/04/201040
3周波測位での成果
1級GNSS測量機におきまして、公共測量ではマルチGNSS測量マニュアルに準ずることで3周波およびGalileoを基線解析に使用できます。(基本測量は現状認められません)3周波を使用した場合、基線長10kmで観測時間が90分以上となり、2周波に比べて30分の短縮が可能になります。
尚、上記マニュアルにある衛星間の統合処理はDrogger Proccessorでは行われません。
RTK移動局
高精度
RZSでは高性能な高周波回路が採用されています。弊社の従来機と測位結果座標に違いはありませんが、ばらつき(標準偏差)が小さくよりミリメートルレベルにおいて高精度に測位できます。
下図は、RWS + HX-CSX601A 基準局を用い、HX-CSX601Aの受信信号をスプリッターで分岐し、RWS.DCとRZS.Dで同時に受信した測位結果を数時間に渡ってプロットしたものです。平均位置に差は無いもののばらつきは小さくなっています*4。標準偏差を3倍(3σ)すると99.7%のデータがその範囲に入ります。
機種 | 標準偏差(E-W) | 標準偏差(N-S) | 標準偏差(U) |
---|---|---|---|
RWS.DC | 0.0036 | 0.0039 | 0.0089 |
RZS.D | 0.0024 | 0.0026 | 0.0062 |
高更新レート
サポートされる更新レートは次のレートです。この中間のレートは選択した場合は、もっとも近い低速なレートが適用されます。
25Hz, 20Hz, 10Hz, 5Hz, 1Hz, 0.5Hz
RWSシリーズでは、衛星選択の種類, 数, 単独測位, RTK などの条件により最高更新レートが異なっていました。RZSシリーズではフル衛星、RTKでも25Hzで利用できます。
高精度、高レートを要求するアプリケーションでは、フル衛星測位において従来機の3倍以上のレートで測位可能です*5。
Moving Base
RZSではMovingBaseはサポートされません。MovingBaseは RWS.DCMをご利用ください。
単独測位(SBAS利用含む)
高精度
RZSでは高性能な高周波回路の採用と高性能な測位エンジンと合わせて非常に高精度な測位が可能です。弊社の定点テストでは、電源ONから概ね10分以下で位置が収束し、水平RMS 15cm、垂直 RMS 40cm といったPPP測位に迫る精度を実測しています。
6時間定点テスト (アンテナ HX-CSX601A)
RTK基準局
RTCM 3.2 MSM5
GPS QZS GLO GAL QZSを RTCM 3.2 MSM5を1Hzで出力します。MSM7での出力も[Advonced Options]にて設定可能です。
衛星 | シグナル |
---|---|
GPS | L1C/A, L2P, L2C, L5 |
QZSS | L1C/A, L2C, L5 |
GLONASS | L1, L2, L3 |
Galileo | E1, E5b, E5a |
Beidou | B1, B2, B3 |
下図は実際に出力されたRTCMをデコードし確認した様子です。
RTCM 3.1への対応
少し前の受信機はRTCM3.2 MSMに非対応のものがあります。この場合、RTCM 3.1 (GPS GLO のみ)を必要とします。RTCM3.1ではRTCM 1004 1012を出力します。
Trimble CMR 形式の出力 (予定)
古いTrimble の受信機でRTCM 3.1 3.2に非対応の場合があります。この場合でも、Trimble独自形式のCMR 形式での出力が可能です。
秒以下の時刻オフセットなし
RZSシリーズを基準局にした場合、.999や.001といった秒以下の時刻オフセット問題は発生しません。
RWSシリーズで移動局によっては、Drogger Ntrip Serverが必要でしたが、RZSでは必要ありません。
低コストで対応能力の高い基準局
上記の特徴により、将来に向けた3周波、レガシーに対応する RTCM 3.1 CMR などほぼすべてのRTK受信機に対応できます。
内蔵Ntrip ServerとDrogger Ntrip Casterによりベストマッチした基準局の運用が可能です。また、設定も含め追加の費用や機器、ツール(Windowsなど)一切不要です。
サーべーイン
一定の時間単独測位を行い、安定したら自動でその座標で基準局になるサーベイン機能はサポートされません。ただ、単独測位(またはRTK測位)からボタン一つで現在の座標での基準局になる機能はRWSシリーズ同様に利用できます。
NMEA出力
GNS
GNSメッセージは、RWSシリーズの 総合値の$GNに加えて衛星ごとの衛星数も出力されます。(例 $GPGNS, .... $GLGGNS... )このため高レートでGNSを有効にすると、出力インターフェースの転送能力を超えてしまいやすくなりますので注意が必要です。
Galileo信号認証に対応
衛星信号認証は、衛星から受信したナビゲーションメッセージの信頼性が検証され「なりすまし攻撃」への強力な対抗手段です。
RZSシリーズではGalileo 信号認証(OSNMA)は常に有効です。検証で否定されたGalileo衛星は使用されなくなります。
VRSC
CLAS
RZSもVRSCに対応します。Drogger-GPSアプリでの設定は従来通りです。CLASですので地殻変動補正を有効にします。
- [設定]-[RTK]-[移動局]をONにします。
- [移動局用キャスターホスト]-[Ntirp Caster タイプ]で「VRSC」を選択します。
- 設定の最初の画面に戻って、[表示座標系]-[元期へ変換または地殻変動量を補正]をONにします。
- [パラメータファイル管理]をタップして[202x年度]を長押ししてチェックを付けます。
- 左上の[INSTALL]をタップします。
RZSのQZSSはGPSとの統合処理ですが、CLASの特性上、統合するとFIXしなくなります。そのためVRSCではRZSから接続すると自動でL2Cの出力をOFFにします。衛星の選択は、GPS, QZSS, Galileoを選択します。QZSSはVRSC側で必要ですので有効にします。
VRSCでのシグナル選択は以下の図のようにします。
RZSはE5aをRTKで使うことができます。Galileoは E1とE5aを選択します。
MADOCA
MADOCAも問題なく使用できます。Galileo が2周波(E5a)が利用可能になったことで収束時間も早くより使いやすくなっています*6。
GNSS F/Wの更方法
RZSシリーズも、GNSSのF/Wが別にあり、将来よりよい改善のリリースが予定されます。新しいリリースがあった場合、ユーザー様サイドで簡単に更新で可能です。
更新はSDカードとDrogger-GPSが必要です。概ね 20分ほどかかります。 また、SDカードにF/WコピーするためにPCなどが必要です。
- PCなどで事前にSDカードに最新のF/W RZS.Dはmosaic-X5-4.14.4.suf、RZS.DCは mosaic-CLAS-4.14.4.sufをコピーします。
- 受信機にSDカードをセットし、電源を入れます
- Drogger-GPSにてBluetooth接続します。
- [レシーバ]-[GNSS F/Wの更新]をタップします。
- 確認メッセージで[OK]をタップします。
更新中はDMP LEDが1Hzで点滅します。更新時アプリとのBluetooth接続が切れても更新は継続されます。更新が終了すると自動的に再起動します。
途中で失敗や中断をした場合、更新はキャンセルされ以前のバージョンで起動します。尚、途中中断した場合、再起動後200秒以上経過しないと起動できません。200秒を待つ間は、電源投入後17秒後からDMP LEDが0.5Hzで点滅します。
外形寸法とXパッケージ
RWS RWS.DC RZS.Dはそれぞれ少しづつ外形寸法が異なっています。そのため、Xパッケージのためのレシーバーケースも異なります。RWX.DCの受信機をRZS.Dにそのまま入れ替えはできませんのでご注意ください。
*1:BeidouのみB1 B2 B3の3周波受信が可能です
*2:統合処理は、GPSの波数整数解を求める際にQZSSをGPSとみなしてGPSに含めて2重差演算することを言います。QZSSをGPSとは別の衛星としてQZSS同士のみで2重差演算する方法を混合処理と言います。
*3:QZSSのL2はGPSのL2に対して 1/4サイクルの位相差があります。この位相差の扱いが基準局と移動局で一致している必要があります
*4:RMSおよび図の中心は特に意味を持ちませんので無視してご覧ください。
*5:出力メッセージが大量で出力インタフェースの能力を超えることはできません。高レートでは出力量の調整が必要な場合があります
*6:RWSシリーズではE5aが受信できないためGalileoはE1のみの測位でした。