今回は、Drogger Processorを使って高精度に基準局のアンテナ座標を測量する方法をご案内します。
これは正確に点の座標を求める作業ですので、基準局に限らず参考にしていただければと思います。
まずは正確さについてです。
正確な座標とは
移動局の座標精度は基準局の座標精度に依存する
RTKやSTATICは相対測位で「基準局からの距離と方角」を測っています。
移動局で座標が得られるのは、基準局の座標が分かっているからです。
移動局の座標精度は、スペック表で 1cm + 1ppm CEPなどと記載されますが、これは「基準局からの距離と方角*1」の精度です。普段からトータルステーションなどで測量されている方でしたら、視通の要らないトータルステーションと同じとお考えください。
移動局で得られる座標は、基準局の座標に距離と方角を加えた位置です。すなわち移動局の座標精度は、基準局の精度に依存することになります。移動局の座標を直接使う場合は、基準局の座標が正しい(良い)ことが、まずは大切です。
国家座標
国家座標とはということで国土地理院の定義をみると色々書かれています。わかり易い表現を抜き出しますと「国家座標とは、三角点や電子基準点と整合する座標です。」とあります。
網平均計算
国家座標はある基準日におけるその場所の座標を示しています。時間が経つにつれて地震や地殻変動などで、今現在の緯度・経度の値は基準日とは異なってきます。
しかし、例えば電子基準点 「松本」の座標は2011年から変わっていません。国家座標は、その場所の現在の緯度・経度と正確に一致するとは限らないものなのです。さらに、電子基準点や三角点などはたくさんあり、その間の距離も長くなったり短くなったりしていることです。
下図はビズステーション株式会社に設置したアンテナの位置を複数の電子基準点を使って位置を求めたものです。 結果は前述の理由などで1点には定まりません。
では、今計ると位置も距離も当時とは異なっているものに対して新しい基準点の座標はどうやってきめるのでしょうか? これを決める方法が三次元網平均という計算です。
三次元網平均計算は、新点を複数の国家座標基準点から測り、地殻変動や誤差などで矛盾した距離を、測量の正確さや重みを鑑みて整合性の良い位置を求めます。これは基本測量や公共測量などでは必ず行われます。
下図の緑色の点がDrogger Processorの三次元網平均計算を行って求めた、アンテナの位置です。
電子基準点の選択
網平均を行う場合は、特にX Y方向それぞれ両側の国家座標から測ることでひずみをバランス良く配分できます。
使用する電子基準点の数は、新点と2つの電子基準点がほぼ直線状に配置できれば2点、そうでなければ3点または4点が理想です。いずれも、電子基準点で新点を挟む(囲む)ようにします。
以下はY型に3つの電子基準点を利用する例です。
まとめると
- 国家座標は基準となる座標のため頻繁に更新はされず、地殻変動などによって最新の座標とは多少異なっている。
- 新点を決める際は、既にある近隣の複数の基準点を使って整合性のとれた座標を計算する。
- 測量などで使う基準局を構築するには、複数の電子基準点を使って網平均計算して得た座標を使う。
- 利用する電子基準点は設ける基準局を囲むように選択する。
受信機の精度評価法について(参考)
例えば電子基準点Aから近隣の三角点Bまでの現在の方角と距離は、その国家座標差とイコールではありません。ですので、VRSや通常の基準局を利用したRTKで三角点などの位置を測ってもセンチメートル級の受信機の精度評価はできません。
受信機の精度は、精密に測量された2点の一方に基準局を置き、もう一方の点を移動局で測量しそのベクトル(距離と方位)を精密測量値と比較することで行われます。(測量協会などでのRTK法の機器検定はこの方法です)
実践 基準局座標を求める
では実際にアンテナ位置を測量してみましょう。まずは、出来るだけ高く周囲に他に高いものが無い場所に、しっかりとアンテナを固定しましょう。
Drogger Processorを使って、STATIC測量により基準局座標を求めていきます。
RAWデータのロギング
ロギングとDrogger Processorへのデータのインポートの方法は、Drogger Processorユーザーズガイドの方法通りです。ただ、以下点はこのガイドを優先してください。
- 観測時間を6時間以上としてください。STATICの場合、概ね4時間くらいまで収束する傾向があるためです。
- 基準局のアンテナ位置の測量の場合は、アンテナ高はゼロにし、アンテナ名の後ろに 「PHSCNT」が付加されたものを選択します。例えばアンテナが、HX-CSX601Aであれば「HX-CSX601A PHSCNT」を選択します。
これを選択しますと、アンテナ位相中心の位置を求めるPCVデータが使用されます。*2
測位ウィザード
ここも、Drogger Processorユーザーズガイドのとおりです。選択する電子基準点は少し多めに選択して構いません。あとで不要な解析を削除します。また、「終点」を選択する必要はありません。解析オプションもまずはデフォルトのままで行います。
観測データの評価
国土地理院では、民間等電子基準点制度を設けています。その制度では観測データの品質に関する基準が設けられています。それに則った評価をしてみます。基準は以下のようになっています。
級別分類 | MP1 | MP2 | o/slps | 取得率 |
---|---|---|---|---|
A 級 | 0.6m 以内 | 0.7m 以内 | 300 以上 | 90%以上 |
B 級 | 1.2m 以内 | 1.4m 以内 | 100 以上 | 85%以上 |
C 級 | ― | ― | 100 以上 | 85%以上 |
サイクルスリップ(観測の飛び)率は通常、エポック(データ)数に対するサイクルスリップの数ですが、何故か分母と分子が逆になっています。 マルチパスとサイクルスリップが少なく、信号レベルが高いことが良い観測といえます。
RINGOのダウンロードと配置
評価のためのソフトウェア(たぶん)として国土地理院からRINGO(りんご)というソフトを無償ダウンロードできます。
Windows 64bit版はここをクリックするとダウンロードできます。
ダウンロードした、ringo.exeをPCの"C:\Program Files (x86)\Drogger Processor\Bin\"にコピーしてください。Drogger Processorから数クリックで観測データの評価ができます。
RINGOで観測データの品質評価
RINGOの配置が出来ましたら、以下のように操作します。
- [点と観測データ]から、今回観測したデータを右クリックします。
- [送る]-[RINGO qc]をクリックします。
メモ帳にて評価結果が表示されます。一番下までスクロールします。
囲みの部分がGNSSごとの結果です。左のG R E J Cが順にGPS, GLONASS, Galileo, QZSS, Beidouです。
マルチパス
MPはマルチパスの略でSTDは標準偏差の意味です。STD(MP1)がL1、STD(MP2)がL2、STD(MP5)がL5のそれぞれのマルチパスの標準偏差(m)です。 これらの数値は小さい方がより良い観測データを意味します。
サイクルスリップ
# of slips/nobsが全体の観測エポックの数に対する、受信機が検出したサイクルスリップ数を示しています。サイクルスリップも少ない方が良い観測です。
GF, MW, IOD(L1)はRINGOのサイクルスリップ検出アルゴリズムによる検出値です。
GF, MW, IOD(L1)それぞれのアルゴリズムについては、以下に記載されています。
https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-023-01811-w
この評価は電子基準点の観測データに対しても行うことができます。解析に使った電子基準点も是非確認してみてください。
評価結果からあまり観測データが良くないと思われる場合は、原因を考え対策し再度観測を行います。
解析状態
解析状態は、RINGOではなく、Drogger Processorの[測位データ]タブで確認します。
[解析名]一覧で順に解析行をクリックして確認します。
下図のようにFIX解が上下のふらつきが少なく右に向かって安定しているか確認します。
FIX解がわずかしかない場合や不安定な結果の場合は、RINGOの結果を参考に、再度条件を変えて解析を行います。どうしても良くない場合はその解析行を削除します。
電子基準点の選択
評価に問題がなければ、[Waypoint]-[路線]をクリックして電子基準点の配置を確認します。
上図のような場合、まず遠い2つの電子基準点との解析を削除します。
まずまずのY型ですのでこの3つでよさそうです。
三次元網平均計算で座標を得る
電子基準点の選択ができましたら、以下の操作で計算結果を得ます。
- [網平均]タブをクリックします。計算オプションを下図のとおりにします。
[補正]は2つともON、[推定]はすべてOFF - [表紙]などのタブの下の領域を右クリックします。
- [新点のWaypointを生成する]をクリックします。
- [Waypoint]タブ [新点]をクリックします。
下図のグリーンの点のように、網平均結果の点がプロットされます。
また、解析結果リストにピンク色のアイコンで計算位置の行が追加されます。この行に表示される緯度・経度・楕円体高が得られた座標です。
受信機の基準局設定
データの中継に弊社のDrogger Ntrip Casterを使用される場合は、この記事のとおりに設定します。手順の中で座標を指定する部分がありますので、上記で得られた緯度・経度・楕円体高を入力します。また、この座標は元期座標です。
下図の方法で、座標をGoogleドライブなどに保存し、Drogger-GPSでインポートすることもできます。
これで高精度な基準局が構築できます。
ヒント
よく、楕円体高は空で良いですか?と聞かれますが、NGです。正しい楕円体高を入れる必要があります。合わせてその楕円体高はアンテナ位相中心の高さとし、アンテナ高はゼロとします。
補足
今回この記事のために、Drogger-GPSとDrogger Processorに各アンテナのPHSCNT(Phase Center)を用意しました。また、電子基準点の改廃と能登半島地震による成果変更に対応しています。
RINGOをインストーラに含めることができればよいのですが、法務的に問題ないか現在確認中です。
Enjoy with Drogger
Droggerの詳細・ご購入は https://www.bizstation.jp/ja/drogger/